キャットシッター猫屋敷 相棒猫日記





相棒猫日記

VOL.29 うめちゃんの大脱走
/2004年5月4日・火曜日




キャットシッター猫屋敷 相棒猫日記

私は、うめちゃんと共に実家で連休を過ごしている。

夜、家中をパチャさんと走り回っていたうめちゃん。
トコトコ、トコトコ。タッタッタッタッ。ふたりの足音がかわいくて面白い。

突然、母の大きな声。
「タイヘン!うめちゃんがぁ!」

何事かと、慌てて声のするほうへ。
「うめちゃんが、ここから出て行っちゃった」オロオロしながら母が言う。

たまたま洗面所の窓を開けた瞬間にうめちゃんがそこへ来て、外に飛び出してしまったのだ。
「えっ!」言葉が出てこない。

どうしよう。外はもう真っ暗だ。
窓から左側へ行けば、車も通る大きい道路。
正面へ行けばお隣の家。
右へ行けば、物置のある家の裏側だ。

あぁ、どうしよう。道路へ出てしまったら交通事故…。
最悪の事態を考えてしまう。
懐中電灯を持ち、急いで外へ。
玄関から庭へ出て、声をかけながら道路を見る。

いない。もう、どこかへ行ってしまったのだろうか。
父も母も、それぞれに庭のあちこち、家の裏側を探してくれる。

家のまわりをずいぶん探したが見つからない。
いったん家に入り、気休めにしかならないと思いつつ、洗濯機の裏側も見てみる。
やはりいない。

もう一度、外へ。
落ち着いて、落ち着いてと自分に言い聞かせる。

もう、どこを探したらいいのか、わからなくなっていた。

切羽詰まった思いであちこちを懐中電灯で照らす。
もう、絶望的、といってもいいくらいの気持ちだ。

物置と後ろのお宅の塀の間を見る。とても狭い場所。
あ、いた! うめちゃんの目がライトで光った。
うめちゃんがこっちを見ている。
でも、私の手は届かない。

何度も見た場所なのに、見つけられなかったのだろうか。
いつここに入り込んだのだろう。
そんなことはどうでもいい。
とりあえず、うめちゃんは無事でいてくれた。よかった。

「うめちゃん、おいで」声をかけるが、うめちゃんは少しも動こうとしない。じっと私を見るだけだ。

「どうして?どうしたの?」

見つけた安心もつかの間、次第に新たな焦りがこみ上げてくる。
首輪が何かにひっかかってしまったのだろうか、だから動けないのだろうか。
家での居場所を知っていたいと思い、鈴のついた首輪をつけていたことが悔やまれる。
どうしよう、どうしよう!
何とかしなければ! どうすればいい?

うめちゃんの好きなひも遊びで誘いだそうと考える。
私がひもを取りに行っている間に、うめちゃんがどこかへ行ってしまわないよう、母にうめちゃんを見ていてもらう。
物置の反対側には父が待機。
うめちゃんがどちらに動いても大丈夫な状態だ。

緊張と焦りでふるえる足を一歩一歩前に出し、大急ぎでひもを取りに。
私の尋常ではない慌てぶりに、家の中にいたパチャさんが驚いて「シューッ!シューッ!」と毛を逆立てている。

「ごめんね、パチャさん。ごめん、びっくりしないで」
パチャさんに申し訳ないと思いながらも、今はそれどころではない。
まずは、何か、ひもだ。ひものようなもの…。
しばし考え、荷造り用のひもを手に、うめちゃんのもとへ走る。

うめちゃんは、相変わらず同じ場所からこちらを見つめている。
やはり動けないのだろうか。怪我をしているのかも…。

懐中電灯でひもを照らし、ゆらゆらさせながら「うめちゃん、ほーら、楽しいよ。一緒に遊ぼう」と声をかける。
うめちゃんは、確かにひもを見ているが、動かない。

こうなったら、明日の朝まででも、このままずっとうめちゃんに付き合おうと覚悟を決める。
消防隊さんの助けを借りるしかないのだろうか。
九死に一生なんてテレビ番組が思い出される。
消防隊さんの助けを借りるとなると、この物置は壊すしかないのだろうな。
頭の中に色々なことが浮かんでは消えていく。
ひもは揺らしたまま。

どのくらいの時間がたっただろう。
ようやく、うめちゃんが動きを見せた。ゆっくりだが、こちらへ向かおうとしている。
よかった、動けるんだ。

「うめちゃん、おいで」
やった、もう少し。「うめちゃん、おいで。帰ろう」

ここで焦ってはいけない、落ち着かなければ。
ゆっくり、焦りを悟られないよう同じスピードでひもを揺らす。
うめちゃんが一歩ずつこちらへ近づいてくる。

あわてて抱き上げようとして、びっくりさせてはいけない。
私の足元へ来るまではこのままひもを揺らしていよう。
でも、抱き上げるのが少しでも遅れると道路へ飛び出してしまうかもしれない。
…緊張で呼吸もできなくなり、倒れ込みそうになる自分を必死に落ち着かせる。

もう少し、もう少し。落ち着いて、ゆっくり…。

今だ! 驚かせないよう、そっと、でも急いでうめちゃんの体を抱き上げた。

やわらかいうめちゃんの体が、ようやく私の腕の中に。

「うめちゃん、うめちゃんよかった。怪我はしてない?」
うめちゃんはいつものように、私に体を預けてくれる。
本当によかった。怪我もしていないようだ。

緊張がとけて、泣けてきそうな気持ちのまま、うめちゃんと一緒に家に入る。

うめちゃんの体をきれいに拭いてあげながら、改めて再会の喜びをかみしめ、安堵する。

それにしても、なぜ、お隣の家でもなく、広い道路でもなく、物置のかげだったのだろう?

きっと、うめちゃんにとっても、外に出ることは予想外のことだったのだ。
パチャさんと走り回っていて、たまたま外に飛び出してしまっただけなのに違いない。

びっくして、あわてて、こわくてなって、自分の身が隠れる物置のかげに入り込んだのではないだろうか。

ここまで考えて、私はまた、小さなうめちゃんが自分の身を自分で守り、一人で生きていた頃のことを思う。

うめちゃんはその頃、もしかしたら、人間が入れない狭い所を寝場所に選んで生きていたのかもしれない。それが身を守るためのうめちゃんの知恵だったのではないだろうか。
私のところへ来るまでの2ヶ月間を、うめちゃんがたった一人で生き抜けた理由のひとつなのかもしれない。

想像することしかできないうめちゃんの生い立ち。
何度も何度も考えた、うめちゃんの生まれてから2ヶ月間の生活…。
そしてまた私の心に、うめちゃんとの出会いの不思議さがよみがえってくる。
出会えてよかった。
うめちゃんが私のところに来てくれて本当によかった。

夜、パチャさんと一緒に寝ていたはずのうめちゃんがいつの間にか私のベッドで気持ち良さそうに眠っている。
安心しきったその顔をみると、うめちゃんへの切ないほどに愛しい想いが、また新たにこみあげてくる。



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